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別に付き合っている訳ではなく、二人きりで遊んだという記憶もないが、だからといって異性として意識してないかというと、そんなことは全くない。それどころか、卒業までに少しでも進展することはできないものかと、毎日悶々とし続けているというのが本音だ。
だからこそ、突然かかってきた電話に戸惑ってしまうのだった。
「もしもし……」
『あ、高梨くん? こんばんは……』
「どうした? こんな遅くに」
緊張しつつも、努めて平静を装う。
『ごめんね。寝てた?』
「いや、起きてたよ。そろそろ寝ようと思ってたとこ」
『そう』
「何かあったの?」
『ううん、何もないよ。なんか眠れなくて。それで、あの……、ちょっと高梨くんの声を聞きたくなっちゃって……』
「えっ」
思いも寄らない言葉に、颯太は心臓が高鳴るのを感じた。
俺の声を聞きたくなっただって? いや待て待て、過度の期待は身を滅ぼす元だ。
ひそかに深呼吸をし、心を落ち着かせようとする。
でも、そうだな。試験も近いし、こいつだって夜中に不安になったりすることはあるよな。
そう考えると、ほんの少しではあるが落着きを取り戻すことができた。
「そ、そっか」
『うん……』
「……」
『……』
うんと言ったきり、奏は何故か黙り込んでしまう。
颯太も何を言えばいいのか分からず、困った挙句に、奏に向かって文句を言った。
「なんだよ」
『え?』
「何かしゃべれよ」
奏は颯太のぶっきら棒な物言いに暫し絶句し、その後、同じように文句を返してきた。
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