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「寺崎さん、本当にずいぶんお久しぶりね。今は何をやってらっしゃるの?」
百合子さんは昔を懐かしむような目をして声をかけてくる。
「大学を卒業してから、しばらくは銀行に勤めてたんですけどね。どうも息苦しくて、五年ほどで辞めてしまいました。今は探偵事務所の助手として働いています」
「まあ、探偵事務所の助手さん? ずいぶん変わったお仕事をされてるのね」
「ええ、よくそう言われます。でも、僕には今の仕事の方が性に合ってるみたいで」
「それなら何よりですわ」
「ええ」
ちょうど僕が答えたところで、
「奥さま」
と、誰かが百合子さんを呼んだ。
声のしたほうを見てみると、二十代半ばくらいの、エプロン姿の女性が立っていた。
「美咲さん、どうしたの?」
百合子さんが問いかける。
「警察の方からお電話ですが」
「あら、今は来客中よ? かけ直すように言ってくれるかしら?」
百合子さんの言葉には、どこか冷たさが漂っている。今まで和やかだった表情も一変して眉間に皺が寄っている。
「かしこまりました」
女性はそう答えると、静かに去っていった。
「奥さま、今の女性は? お子様はお二人とも男性でしたよね?」
「ああ、あの子は三年前から住み込みで働いてもらってるお手伝いさんなの」
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