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Cherry Blossoms
かつての恩師、佐野龍三先生の訃報が舞い込んできたのは、暖かい春の日のことだった。大学時代、僕は佐野先生のゼミでミクロ経済学を学んだ。僕が学生だった当時、五十代だった先生は、まだ六十代のはずだ。今や人生八十年と言われているのに、死ぬにはまだ早すぎる。
僕が先生の家に駆けつけたのは、通夜も葬儀も終わった後のことだった。学生時代にも何度か訪れたことのある先生の家は、代々続く古い二階建ての洋館で、庭には何本もの桜が植えてある。そのため、近所では“桜屋敷”と呼ばれている。
僕が訪ねると、先生の妻、百合子さんが出迎えてくれた。
「あら、寺崎さん。わざわざ来てくれたの?」
「この度はご愁傷様です」
「お入りになって。主人もきっと喜ぶと思うわ」
僕は百合子さんに勧められるがままに家に入り、部屋へと通される。そこには洋館に似合わない立派な仏壇が据えてあり、その前に先生の遺影が飾られている。僕は焼香し、遺影に向かって手を合わせた。
やがて、百合子さんがお茶を持って現れ、僕と向かい合って座った。僕は型通りの礼を言い、熱いお茶を啜る。
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