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今日は奇しくも、とても鮮やかなオレンジの夕暮れだ。
オレンジ色の中を言葉少なに歩くのが好きだった。
フワリと香る緑都の匂いも、時折触れる肩も、伸ばせば握れる距離の手も。
苦い思い出になってしまった〝オレンジ・タイム〟を、もう一度温かい時間にしてくれたのは、紛れも無く緑都だった。
たった一日会っていないだけなのに、会いたくてたまらない。
あの声が聞きたくてたまらない。
不意に、陽和はキッチンに背を向けると、そのまま玄関へと向かった。
せっかく帰って来たのに書置きも残さず、そのまま外へ出ると、迷わず足先は進んでいった。
「はぁ~……」
「とんだ、天然爆弾だ」
桂佐が帰った後、二人は向き合って脱力する。
「緑都。今日は臨時休業だ」
「何言ってんだよ、お前」
唐突なことを言い出した玄に、緑都は慌てた。が、その顔はそこはかとなく怒っていた。
「魔王様。生贄を攫いにいくのですか」
「攫うのはお前の役目だろ」
(血祭りに上げる気だ)
怒りが沸点に達した時、手をつけられなくなるのは、緑都よりむしろ玄の方だった。
二人は急いで、閉店の準備と本日休業の張り紙を出す。
外の夕日は一層濃くなっている。
きっと今頃は、不安そうな顔の陽和が見られる事だろう。
二人の足は自然と速くなっていく。
オレンジに染まる河川敷を見る頃には、怒りより、むしろ心配のほうが強くなっていた。
フワリと吹いた風に、緑都は顔を背けた。
それはまるで、誘うような風の悪戯。
これから会いに行くはずの、寂しそうな存在がオレンジの光りを受けていた。
膝を抱えた頼り無い背中がそこに在る。
慌てて、隣を早足で歩く玄の腕を掴んで引き止めた。玄も一瞬で事態が飲み込めたように、軽く溜息を吐く。
「今日、家に戻ったってのはどうゆうことか、説明してもらおうか。陽和」
声を掛けられた陽和は、一瞬、肩を震わせ、それでも恐る恐る振り返った。
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