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夕日の匂いを含んだ風が流れて行く。
瞳に映る景色一面が、オレンジに染まっていた。温かい色のはずなのに、ふと、寂しさを感じる色。
夕暮れ時のオレンジ色は、陽和の胸の奥にしまった古傷をチリチリと痛ませ、どうも、感傷的になっていけない。
河川の堤防は遊歩道になっていて、その下の河川敷には、緑の並木やスポーツ用のグラウンドまで在り、小さな子供を連れた家族に、学校帰りの学生達で、結構人通りが多い。その中を、自分も高校の制服を着て歩いていると、数人の女性が好奇の視線で振り返って行く。
彼女達の視線を一身に集めているのは、自分では無く隣を歩く男で、自然に醸し出される自信は、そんな視線を堂々と受け止め、悠然としている。
(どこに居ても目立つ人だなぁ)
すっきりとした目鼻立ちを持つ長身の男は、少し鋭くさえある視線で、陽和を見下ろした。
「俺じゃねーよ」
「え?」
不意に投げかけられた言葉の意味が分からず、聞き返してしまった。
「俺が見られてんじゃねぇよ」
自分の考えている事が相手には筒抜けのようで、陽和は照れ隠しに笑って見せる。
「そっか。男の二人連れで、こんなデートコース歩いてたら目立つよな」
クスクスと笑った陽和の横顔に、男は「バーカ」と、呆れた溜息を吐き出す。
「お前が見られてんだよ。目立つ顔しやがって。もっと自覚しろよ。美人顔」
大きな手で髪の毛を混ぜられた。
甘さを含まないからかいでも、触れられた所へと、一気に血液が集まって行くのが分かる。速い鼓動は、血液を送る事を止めてくれず、更に、顔まで熱くなる。
傍に居るだけで。ふと触れられる度に。胸の奥底から、たまらない気持ちになる。
「店長……好き」
切ない想いを紡ぎ出せば、その心を伝えたい男は静かな瞳で陽和を見つめる。
「知ってる。けど、届いてない」
いつも返される言葉は同じで、陽和は力無く笑う。
まだ自分の想いは、この人の心まで届かない。まだまだ遠い存在。自分が繰り返す想いの先に、いくら手を伸ばしても届かなかった桂佐の姿が蘇る。
今回も同じ。届かない想い。
「じゃ、明日、もう一回」
だけれども、何度でも手を伸ばしてしまう。
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