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ババババッツ
いよいよ、天一郎が後継者の発表をするかと思えるその瞬間、食堂の窓の外に不気味に鳴り響くプロペラ音が聞こえてきた。私設警察DOKYOUの対応は素早い。それぞれ護衛についている親子の前に体を投げ出す。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
国籍不明の武装ヘリの30mm単砲身機関砲が牙をむく。弾丸1200発全てを撃ち尽くすまで火を噴いた。さしもの私設警察DOKYOUの先鋭たちも嵐に舞う木の葉のように木っ端微塵と化す。それでも、己の身を犠牲にして、警護する親子の楯に徹するところは、流石である。
正直、俺も危ない。いくら最新の防刃&防弾&衝撃吸収&超光学迷彩服を着ていても1200発の弾丸の嵐に翻弄される。母親の美汐はDOKYOUに任せて、美帆だけは守り抜こうとしたが、防弾、衝撃吸収にも限界がある。
ズガン
一発、背中に食い込んだ。必死に悲鳴を飲み込むが、体は正直だ。大量の血が流れ落ちる。テーブルの下で俺に抱きかかえられていた美帆が、「ハッ!」と顔を上げたが、すぐにうつむいた。
武装ヘリは空飛ぶ戦車だ。ロケット弾もミサイルも搭載している。俺は、背中の痛みをこらえて、窓際に行く。
「何てこった。」
操縦者が一人もいない。人工知能、AI搭載ではないか。これくらいの距離なら棒手裏剣でコクピットの一点を集中して狙って打ち、操縦者を仕留める自信はあったが、無理だ。遠隔操作の実在するウオーボットの遥か上を行く完全自立型。これは、やっかいだ。
「蒼天を舞う盟友たちよ。俺に力を貸してくれ。」
俺の呼びかけに、病院付近に生息する鳥たちの大群が武装ヘリに群がる。スズメ、ハト、カラスからトビまで、勢ぞろいだ。コクピットをすっぽり覆うもの、エンジンのすき間に飛び込むもの、テールローターを攻撃するもの、己の身が傷つくことを省みない。俺は、涙が出た。
盟友たちのおかげで、武装ヘリがバランスを崩し、錐もみ状態になって病院の駐車場に墜落して、爆発した。
俺は、ホッとして気を失いそうになったが、歯を食いしばり、元の形をとどめていない瓦礫の山と化した食堂内の生存者を確認する。四組の親子は手足に怪我を負っているものの、命には別条はなかった。
しかし、天一郎はハチの巣状態で、すでにあの世に旅立っていたのである。
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