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「暫くお待ち下さいとのことです。」
思ったより重傷なのかと心配になった俺を待ち受けていたのは、化粧バッチリで、髪をきちんとセットした親子の笑顔だった。『そっちかい。』とずっこけそうになったが、その女心満載の笑顔も弱々しく感じられる。無理もない話だ。誰だって、あんな目にあったら、そうなる。むしろ、この親子は強い。
「お二人が元気そうで、何よりです。」
「ありがとうございます。これも、全て尾上様がその身を省みず守ってくれたおかげです。」
「えっ。」
「私ども、一度でも宿泊されたお客様の顔と名前は憶えているつもりです。」
「なるほど、流石ですね。」
「そんなことより、傷の具合はどうなの。あんなにも沢山血を流していたのにさ。」
待ってはおれぬと、美帆が俺と母親の会話に割り込んで来た。
「大丈夫。俺、不死身だから。」
「やっぱりね。妖怪だもんね。」
「妖怪は酷いな。せめて、正義の能力者と呼んでくれ。」
「もしかして、オタク。」
「これ、美帆。口を慎みなさい。特定分野の愛好者と呼びなさい。」
「勘弁してくれ~。」
つかの間の笑い声が病室に響く。あんまり、長居するのも野暮なので、俺は暫く雑談を交わした後、自分の病室へと戻ることにした。この親子のためにも、早くこの事件の方がつくことを心から祈る俺であったが、美帆の俺への特定の感情が燃えていることを知らなかった。
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