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「あれ、まさか、アンタは・・・。嘘だ~。」
俺は現れた男の顔をガン見した。全米が称えるハリウッド映画のアクションスター、シャイニング・ドラゴンことリュウ・ヒカルがこんな場所に現れるなんて予想できないし、信じられないことだ。
「私の名前を知っているとは光栄です。それも、武道王国日本の歴史の陰で暗躍する超実戦武術、大神流の伝承者、尾上 皇君にね。」
俺の尾上一族は神話の時代から大神を名乗っていたが、徳川の世が終わり、明治維新が始まる頃、尾上と名を改めた。ご先祖様はかの有名なヤマトタケルに従って、熊襲征伐で暗躍した。表向きは天皇家の影の護衛番だが、天皇家に歯向かう者、危害を与える者を暗殺してきた。言わば、天皇の直属の暗殺者の一族である。
「俺の方こそ光栄だよ。世界一のアクションスターにお目にかかれるとは。それより、ごく限られた者しか知らない闇の中の闇に潜む我が尾上一族、大神流を知っているとは驚き桃乃木かな。アンタ、ネットの噂通り、中国の闇の世界の出身だね。」
「さあ、それはご想像にお任せします。そんなことより、拳で語り合いませんか。どちらかが、死ぬまでね。」
映画の中では決して見せない凄みのある笑みを浮かべた。
「面白い。望むところだ。」
俺も、負けずに笑みを返す。発達した犬歯をチラリと見せてね。
俺たちは、遠間、約5mで対峙した。一気に室内が静まりかえり、空気が
張り詰める。オバサンが早く始めなさいよって野次を飛ばすことができない程である。
「これは・・・」
「これほどとは・・・・」
俺たちは心の中で驚いた。感動すらしていた。お互い、この若さでここまでの武の境地にあるとは世界遺産の文化遺産レベルものだ。
俺たちの闘気に当てられ、オバサンは気を失いかける。武の達人が観れば、リュウ・ヒカルからは燃え上がる炎のような赤い闘気が、俺からは澄み切った冬でも凍ることのない湖のような青い闘気が観えるだろう。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
お互い動かない。いや、動けない。後だしジャンケンで負ける者はいないだろう。先に動いたら、負けである。
オバサンは知ってか知らずか、モスカイザーの心臓に仕込んだスタンガンのリモコンの最終スイッチを押してしまった。
ズシーン
モスカイザーはとうとう床に倒れてしまった。断末魔の叫びを出せないのは悲しすぎるが、その反面、やっと自由になれる安らぎに満ちている。
「モスカイザー、仇はとるからな。」
俺はひざまずいて、モスカイザーの額に手を当て、心から誓う。
「さあ、とっとと終わらすからな。」
俺は立ち上がり、オバサンを指さし、宣言した。この時、オバサンを心の底から憎いと思ったね。
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