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俺は爺さんの最終的な依頼を予想した。普通に考えれば、クローン技術のデーターを奪うことだけど、生命を弄ぶ行為は爺さんの趣味ではないから、完全に破棄しろかな。
いやいや、日本の影の首領と呼ばれている爺さんだから、アメリカを脅す材料に使うのか、それとも中国かロシアに高く売りつけるつもりかなど、色々考えてしまった。
「ワシの最終的な依頼は、その女性、セドナ・ホワイトのスマホの電話番号とメルアドを聞き出すことじゃ。間違っても、怪我をさせたり、ましてや命を奪っては駄目じゃぞ。よいな。」
爺さんは、それだけ言って、一方的にスマホを切った。
「まったく、年寄りときたら、嫌だね。俺が理由を聞く暇さえ与えない。
自分勝手と言うか、せっかちと言うか、ブツブツ仏像。」
俺は文句を言いながら、オバサンの肩を両手でつかみ、背中に膝を当て、活を入れた。
「もう、ダーリンったら、まだやりたりないの。しかたないわねえ。」
オバサンは意識を失っているとき、昔の男との夢をみていたらしい。寝ぼけていやらしい笑みを浮かべているので、健全な高校生男子の俺は生理的に受け付けない。
「おい、オバサン。しっかりしろ」
「ええっ、おまえは東洋の猿。私に何したの、セクハラで訴えるわよ。」
衣服の乱れを確認して、捲れかけたスカートをなおす。
「俺の方こそ、セクハラで訴えてやりたいよ。何がダーリンだ。どんなエロイ夢を見たんだよ。」
「な、何、言うの。私がどんな夢をみようと、私の勝手じゃないの。」
「確かにそうだね。じゃ、オバサンのさっきの寝ぼけて口走った動画を
ネットで流すからね。美熟女好きの男どもはさぞかし萌え~だろうよ。」
「それだけはやめて。今まで積み上げてきた私の気品ある美貌に裏つけられた知性の神という私の世間の評価が台無しになってしまうじゃないの。明日から、どんな顔して軍の研究所に行けばいいのよ。」
「そんなこと知るか。俺の勝手だろう。」
「お願い、何でも言うことを聞くから。」
「・・・・・・・・」
「お願いします。この通り。」
へえ~、日本の土下座を知っているらしい。やめてくれよな、お仕置きをする気が失せるじゃないか。
「わかった。それじゃ、俺のお願いを聞いてもらおうかな。」
「はい、何でもお言いつけ下さい。給料が半分でも、クローン技術のデータを持って日本のどこにでも行きますから。」
普通、誰でもそう思うわな。俺は気が重くなった。
「あんたのスマホの電話番号とメルアドを教えてくれ。そしたら、さっきの動画を消すよ。」
「そんなことでいいの。わかった、教えてあげる。」
セドナ・ホワイトは勢い込んで教えてくれた。俺は元々動画なんか撮ってなかったけど、消すふりをして、オバサンに空の動画フォルダを見せた。我ながら、性格が悪いけど、仕方ないじゃん。
「よかった~。ありがとうございます。」
「わかってるけど、番号とメルアド勝手に変えたり、俺のクライアントから連絡あっても着信拒否するなよ。いいな。」
「御意でございますです。」
おいおい、日本語なってないよとツッコミいれたかったけど、我慢した。
「じゃあ、俺はこれで。」
俺は、基地を後にした。
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