私が欲しければと挑発する美少女

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 俺は、どんな劣勢に追い込まれても、大神流の奥義は使いたくない。AIに学習させたものなら、クソ親父にボロクソにけなされるからだ。  前回、ベルボットを倒すのに使った技、恐らく対策は練っているだろうが、他に通用する技はない。今だ、やるしかない。 「暗黒獅子王拳奥義 獅子の咆哮。」  俺は、一度でも見た技、自分がくらった技は自分のものにできる特技があるのだ。あの暗黒教団の教祖が使った奥義、巨大で強烈な気の波動を俺はぶちかます。武術の心得があるものが観れば、真っ白で巨大な雌の獅子が大きな口を開けて拳法ロボットに襲い掛かかったように見えたであろう。  その時、俺は信じられない物を見たのである。  拳法ロボットが俺と同じ構えを取り、同じ技をぶちかましてきた。俺には観えた。俺のよりも巨大な雌の獅子が大きな口を開けて襲い掛かって来るのを。  俺の巨大な雄の獅子は無残にも噛み砕かれた。当然、俺も全身噛み砕かれて、地面にぶっ倒れた。指一本、動かない。ロボットに気の攻撃はできないと油断した俺が悪い。俺の未熟さを呪う。空に残った飛行機雲が鰻に見える。 「鰻丼、食べたかったなあ。」  そんな可哀そうな俺にトドメを刺そうと近づいた拳法ロボットの前に、スイス大使が立ちはだかる。 「勝負あり。拳法ロボットの反則負けなり。」 「ふざけるな。」  中国最高指導者と大統領が揃って激怒する中、スイス大使は名探偵の如く、 戦鬼を指さした。 「今の気の攻撃は、そこの女性の気を使ったものですね。頭にかぶったヘルメットがその証拠です。たった今、その瞬間、激しく光りました。宜しければ、そのロボットの設計図も、お見せしてもらいたいのですが。」 「本当か、ビジョン・スカイネット。」  大統領は詰め寄るが、当の本人は澄ました顔でのたまった。 「偉大なる中国が生み育んだ中国拳法を、特撮映画のような攻撃で優劣を決めるのは愚の骨頂と言えましょう。みなさんは、単なる武術ではなく伝統文化、世界遺産ともいえる中国の宝をここまで極めた拳法ロボットの偉大さがわからないのでしょうか。この拳法ロボットの功夫、∞(無限)なり。」  この言葉に、見学者一同立ち上がり、拍手するではないか。総理大臣が、顔をひきつかせながら、大統領にゴマをすっている。腹は立つが、俺が負けたのは事実だ。これが真剣勝負なら俺は殺されている。 「尾上様。大丈夫ですか。」  魔鬼とともに駆け寄った林さんが俺を抱き起そうとしたが、俺の体は地面に根が生えたようだった。 「ちょっと、待ってください。」  魔鬼が、俺の鳩尾、丹田に両手を当てると、暖かい気の流れが観えた。不思議なことに体が動くようになった。それだけではなく、全身に心地よい気が巡り、活性化するのを感じたのである。  こうして、無事解放された戦鬼とともに、魔鬼と俺は林さんの運転する車で、帰ることとなった。臨時警備員、実はデルタフォースのエリートたちが、複雑な表情で見送ってくれたのである。        
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