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「おや、お前たちは衆道かい。」
美雪妃が、自分にひざまずかない俺たちを見て、首をかしげる。その仕草が男心をくすぐると言うか、魅惑的というか、やっぱ妖怪だ。
「サムエル伍長、もしかして、あっちの人ですか。」
「とんでもない。私、女性の婚約者がいます。嫉妬深くて、自分以外の女性をチラ見しただけで、ドヤされます。ガン見しただけで、ボコボコですよ。」
ガン見したことあるんかいと、心の中でツッコミを入れる。
「俺も似たようなものです。女子高生の恋人がいるんですが、嫉妬深いうえに、何せ子ども。ワガママに振り回されて大変です。」
「それでも、好きなんでしょ。わかります。」
「わかってくれますか。嬉しいです。」
俺たちは熱い握手を交わしたが、美雪妃は面白くない様子だ。ご機嫌を損ねては、マズイ。
「美雪妃様は美しすぎるのです。現実離れしています。とても3次元とは思えません。それに、僕たちは、忍術を学んでいます。九字護身法を修めていて、人一倍、精神力が強いのです。」
「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前」
俺たちは、早九字を切ってみせた。
「そうかい、そっちの異人も、忍術を学んでいるとな。いと、をかし。」
少し、機嫌が良くなった。今だ。
「あのう、日本にいるはずの雪女の貴女が、何でまた、スイスなんかにおられるんですか。」
「よくぞ聞いてたもうた。わらわは、毎年、暑い夏には、人間に化けて暮らしておるのじゃ。クーラーとやらが、ガンガンに効いたお店でバイトをするのだが、いつも長続きできない。何故だか、わかるかな。」
「美人すぎるバイトがいると、SNSで評判になって、お店に行列ができるですか。他のバイトの女の子の嫉妬を買い、いじめられるとかですか。」
俺は、必死にゴマをする。これ以上、妖怪と闘う気力残ってないから。 「まあ、それもあるかな。冷やしラーメン屋、タピオカのお店、アイスクリーム店、かき氷屋など、あまたのお店でバイトしたものじゃが、問題はそこではない。どこの店長も従業員にしてやるから、愛人になれとか、言い寄って困るのじゃ。セクハラと言うのか。光源氏のような二枚目ならともかく、むさくるしい男が、暑苦しくて困る。それだけではない。ストーカーとやらが、付きまとうので、うっとおしくてたまらん。この前、あまりしつこかったので、一人凍らせてやったら、えらい騒動になってしまったわ。アハハハ。」
俺は背筋がゾオ~となった。この前、真夏の大都会の午前10時すぎ、スクランブル交差点のど真ん中で、全身氷漬けになった変死体が見つかり、話題になっていたが、犯人は、こいつだったのか。
怖い。怖すぎる。
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