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「ところで、何であんな場所に行ったんだい。まさか、友人が急な病で
倒れたからとか、騙されたりして。」
俺はお嬢様のお迎えが来るまでの暇つぶしに聞いてみた。
「そんな馬鹿にしないで下さい。申し遅れましたが、私の名前は葛城三輪、これでも高校2年生です。」
「そんなことはどうでもいいからさ、早く話せよ。」
今までの男と違ってぶっきらぼうの俺の態度に少しムッとしたお嬢様だが、渋々と事の成り始めを話し出した。
「部活動で少し遅くなりましたが、ここのバス停でバスを待っていた時に、あのお二人にこの森に珍しい動物が出ると聞かされまして。」
「一応聞くけど、何の動物だって。」
「はい、狼です。」
「これは、傑作だ。そんな大嘘を信じるなんて、お嬢様こそ、天然記念
動物だね。」
俺は我慢できなくなって、腹を抱えて笑ってしまった。
「写メも見せてもらったんですよ。」
まったく無礼な俺の態度に、お嬢様はムキになった。
「阿呆。そんなもの嘘っぱちに決まっているだろうが。」
お嬢様のこの先が心配になった。俺が通りかからなければ、あの二人組にどんな酷い目にあっていたことか。
「私だって、日本狼が絶滅したと言われているのは知っています。でも、もしかしたら日本のどこかで生存しているかもしれないと、私は信じているんです。以前に、テレビのニュースでも日本狼らしい生物の目撃情報を紹介していました。」
「あ~あ、あれね。俺も見たけど、本物の狼じゃないね。」
「どうしてそう言い切れるんですか。」
真剣な表情で詰め寄るお嬢様にドン引きしていたところに、お迎えの車がやっと来た。かなりの猛スピードだった。
「お嬢様、ご無事ですか。」
ロマンスグレーの執事らしき男と、見るからに鍛え上げた体つきで眼つきが鋭い若い運転手が車から飛び降りてきた。
「はい、大丈夫です。このお方が助けてくれました。」
「これは、ありがとうございます。お嬢様を助けていただいて、心から
お礼申し上げます。」
斜め45度に頭を下げる執事に対して、運転手は俺をジッと値踏みしていた。警戒心出しすぎと言ってもいいだろう。その姿勢は、プロとして当然だね。
もしかしたら、俺とあの二人組がグルかもしれないし、これから先、強請やタカリがないか考えるのが当然だろう。
「安心しな。俺も残酷皇子、狂い狼と言われている男。ご心配には及ばないぜ。じゃあ、あばよ。」
この運転手とはまた会う予感がした。俺の予感は、よく当たる。
俺は、発達した犬歯でニヤリと笑い、お嬢様が止めるのも聞かずに、
夜の暗闇に駆けだした。
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