俺の予感はよく当たる

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その後も、いかに狼が愛情深く気高く強く優れた生物であるかを聞かされた。お嬢様のお屋敷に行く道中は退屈しなかったが、ローマの建国神話に登場する双子の兄弟、ロームルス とレムスが狼に育てられた話とか、ヤマトタケルが道に迷ったところを狼に助けられた話とか、まあ若い乙女がよくこれだけ知ってるわと感心するとともに、何か背中がこそばいような気持ちになった。 「すげえ~。」  しかし、お屋敷に到着した瞬間、そんな気持ちはふっとんだ。テレビや映画に出てくるようなお屋敷なんてもんじゃない、まさにお城だ。  日本文化の伝統と文化を上品にこれでもかってくらい盛り込んだ歴史的な様相、それでいて危機管理体制がガチで完備されている。要塞と言っても過言ではない。  これは、俺でも忍び込むのはちと骨が折れるぞって考えただけで楽しくなる。俺がニヤリと笑っている様子を運転手はバックミラーでチラリと覗き見する。流石だ。こいつ、ななかなできる。お嬢様は無邪気に喜んで見ているだけだ。  そして、いよいよお屋敷の中に入り、お嬢様と執事にはさまれるような形で、大広間に通された。豪華絢爛の京都の二条城も名古屋の徳川美術館も、ここに比べれば子ども部屋だな。  そこで、俺を待ち構えていたのは、およそ齢90を超えているが肌に張りがあり、眼光も鋭く背中がピーンと伸びている爺さんだった。  全身から立ち上る気というか、オーラがハンパなく、あの有名な役行者こと役小角(えんのおづぬ)を思い起こさせる。 「よう来てくれた。さあ、座れ。おい、大山、早くお茶の用意をしろ。」 「はっ、只今すぐに。」 「そんじゃ、爺さん、遠慮なく。」  執事が下がったあと、俺はお嬢様と並んで、爺さんの前にドスンと座り、自分でも言うのも何だが長い足を組んだ。半分、わざとだけどね。 「まあっ、御祖父様に向かって、その態度、失礼極まります。」  眉間にしわを寄せ、気色ばむお嬢様だったが、俺にとっちゃカエルの面に小便、石に灸、鹿の角に蜂ってとこか。 「まあ、よい、よい。」  老人は笑って、片手でお嬢様を制する。気に入った。  こりゃあかなりの大物だね。
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