俺の予感はよく当たる

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「久しいのう。ずいぶん、大きくなったものじゃ。」 「えっ、爺さん、俺に会ったことがあるのかい。」 「覚えておらぬか。まあ、無理もあるまい。まだ、お主が小学生になったばかりの 頃じゃからのう。」 「へえ~、そんな昔かい。そんで、いつよ。」 「お主の母上様の葬儀の時に、一度な。」 「・・・・・・・・・」  俺は、老人の顔を暫くガン見した。すると、記憶の片隅からある顔と名前が 浮かび上がる。 「ひょっとして、蔵王権現の爺さんかい。」 「そうじゃ、覚えてくれておったかい。こりゃあ、嬉しいのう。あの頃は、まだ 髪があったが、今じゃすっかり寂しくなっておる。」  お嬢様は、禿げあがった頭を叩きながらこれほど嬉しそうに笑う祖父の顔を 見たことがないので驚いている様子だった。  しかし、俺は即座に立ち上がり、深く頭を下げた。 「その節は、母の葬儀にご会葬くださり誠にありがとうございました。 葛城様から心のこもったお別れの挨拶を賜り、母もさぞかし喜んだかと存じます。 また、生前中のご厚誼(こうぎ)に、厚く御礼申し上げます。」  無頼の俺だって、冠婚葬祭の礼はわきまえているつもりだ。  「うむ。礼には及ばんが、お主の立派に成長した姿を母上様に見せてあげたいものじゃ。」  老人は瞳をウルウルさせてくれた。これって、反則だよ。俺まで、ウルウルしてしまう。  「御祖父様、尾上様とは一体どういご関係ですか。」  仲間外れにされた気分で少しすねた感じで、お嬢様が尋ねた。  「まあ、簡単に言えば、尾上 皇君の母上様は、我々葛城一族の出身じゃ。  だから、お前とは遠い親戚になる。」  横目で俺をちらりと見ながら老人は、そう説明した。   流石、葛城 聖宝斎、役小角の末裔。真言密教の奥義を究め、大峰山の奥駆けを再興した高僧、聖宝の生まれ変わりと言われるほどの神通力を誇る修験道の巨星だ。  その力は計り知れなく、昭和が生んだ最後にして最大のフィクサーと呼ばれ、政財界のトップもこの爺さんには逆らえない。総理大臣も就任の際、秘かに挨拶に来るほどだ。  その話は置いといて、確かに老人の言っていることは本当だが、俺の尾上一族と腐れ縁というか、切っても切れない関係にあるが、それは、お嬢様のような一般市民、表の世界の住人には説明する必要はないもんね。マジ、危険すぎる。       
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