俺の予感はよく当たる

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「へえ、そうだったんですか。知りませんでしたわ。」  お嬢様の俺を見つめる瞳に、これまた別の意味で危険なものが浮かんだ。 俺、野郎相手に挑発したり、脅したり、喧嘩とか乱闘とかは得意だが、女の扱いにはまったく慣れてねえからな。ましてや、葛城の爺さんの孫とくりゃあ、扱いを間違えると、警察だけでなく、自衛隊まで敵に回すことになりかねない。  まあ、それはそれで面白いかもしれないな。退屈せずに済むもんね。 「お主、お願いじゃから三輪とは仲良くしてやってくれ。」  ヤバイ、この爺さん、読心術も究めていたかな。俺の顔を呆れた様子で 見つめる。 「あっ、まあ、はいっかな。」  俺は、慌てて返事した。この爺さんには嘘は通じないから、冷汗もんだよ。 「お待たせしました。」  そこへ、救いの主が現れた。大山と呼ばれる執事がお茶の用意が整ったらしい。 「うひょお~、これは。」 「そうじゃ、覚えておるか。あの時も一緒に食べたのう。さあ、食べようではないか。何をしておる。三輪も食べるがよい。」 「いただきます。」  俺とお嬢様は見事にハモったが、先に感嘆の声を発したのはお嬢様だった。 「何、これ。美味しい~。何ていうスイーツ。」 「葛餅でございます。」  爺さんが用意させたものは、奈良県で一番の老舗の葛餅だった。 「わらび餅じゃないのね。」 「はい、葛餅は、吉野の葛の根から採る葛粉から作られております。水で 溶いた葛粉に砂糖を加えて火にかけ、透明感が出るまでよく練ります。練り上がったものをバットに流し込み、水で冷やした後、長方形に切ります。トッピングは、きな粉や黒蜜でございます。吉野本葛粉を使うと、舌触りも滑らかになる上に、プリプリの食感が楽しめるといった次第です。」  俺は思わず、拍手をした。これほど美味しい葛餅はあの時以来だ。母親を亡くし、葬儀でドタバタして忙しい父親にかまってもらえず独り寂しい想いをしていた時に、この爺さんが食べさせてくれた。あの時の美味しさ、いや優しい思いやりは今でも覚えている。 「ちなみに、わらび餅の作り方は、葛餅によく似ております。わらびの根から採るわらび粉、デンプン、砂糖、水などを加熱しながら透明になるまでかき混ぜ、冷まして固めるのです。」  執事は丁寧に説明してくれたが、俺も爺さんもお嬢さんも食べるのに夢中になって誰も聞いてなかった。ごめんよ。
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