私が欲しければと挑発する美少女

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トントントン 「失礼します。」  その邪魔者は、やはり、林さんだった。 「山人王様がお呼びです。」  恨めしそうに林さんを睨んだ三輪は、そっぽを向いた。  俺だって恨めしいけど、爺さんの呼び出しは無視できない。そもそも、この御屋敷は爺さんの持ち物だからな。俺は拗ねる三輪を部屋に残して、応接間に向かった。そこには、いつもの如く爺さんが待ち構えていた。  葛城 聖宝斎、役小角の末裔。真言密教の奥義を究め、大峰山の奥駆けを再興した高僧、聖宝の生まれ変わりと言われるほどの神通力を誇る修験道の巨星だ。その力は計り知れなく、昭和が生んだ最後にして最大のフィクサーと呼ばれ、政財界のトップもこの爺さんには逆らえない。総理大臣も就任の際、秘かに挨拶に来るほどだ。そういえば、テレビで見たけど、自衛隊員の婚活に力を入れてくれるらしい。婚活ピクニックだったかな。爺さんに頼んだ甲斐があったというもんだ。 「よく来てくれた。さあ、これを食べてくれ。」  出されたものは、何とヨモギ餅だった。内心、邪魔しといてこんなありふれたものかよと、心の中で文句を言いながら、一口食べた瞬間、ヨモギ特有のしかも濃い香りが鼻を突き抜けた。味も歯ごたえ、喉越しも極上だ。 「何じゃ、こりゃあ。」  俺は昭和の名優のあるドラマの台詞みたいなのを、叫んでしまった。 「これはな、名古屋の有名店のヨモギ餅じゃよ。美味さの秘密は、選りすぐられて集められて冷凍保存されたヨモギと、半殺しじゃよ。」 「成る程ね。それで、今度の仕事は何だい。」 「お主にとっては、仕事というほどのものでもあるまい。お主も聞いていると思うが、例の『私が欲しければ、私を倒してごらん。』のお騒がせ女じゃよ。流派は言えぬがある武道の中堅どころがわざわざ出かけて行って、瞬殺されおった。その流派の宗家は怒り心頭し、その男は即刻破門。その男が属する道場の師匠も厳重に処罰される事件となった。これ以上、このような事件が起きる前に手を打って欲しいと日本武道連盟がワシに頼んできたということじゃ。何、こんなどこそのじゃじゃ馬娘の相手はこの林に任せればよい。お主は付き添いで、万が一の場合対処してくれればよい。」  ご機嫌の爺さんの横では、林さんが今から熱く燃えていた。
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