スイスの雪山でバーベガジと闘うなんて

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スイスの雪山でバーベガジと闘うなんて

「尾上様、探しましたよ。」  息も絶え絶えに俺の足下にうずくまるスイス大使に、俺は怒りをぶつけようがない。テントの中から出てきた三輪も、同じ気持ちである。 「どうしました。こんな場所まで。」 「バーベガジが大量発生し、暴れているのです。登山客も大勢捕まっているのです。」 「何ですか。それは。」 「はい、我が祖国スイスなどの寒冷地に住む氷のゴブリンです。性格は極めて凶悪。大きな足でスキーのように斜面を滑ることができます。吹雪や雪崩を起こし、山へ入ろうとする人間を阻むのです。常温では2~3時間しか生きていられないので、夏は大人しく眠っているのですが、今年は異常気象、真夏のスイスに吹雪が吹き荒れたせいかと思われます。」 「ふ~ん、そうなの。でも、私たちに関係ないし。」  三輪はあくまで素っ気ない。俺だって、本音はそうだ。 「スイスに軍隊はあるはずだろう。」  永世中立国であることを誇るスイスが軍隊を持ち、国民皆兵制(男性)を採ることを知る者は少ない。女性の兵役義務を検討しているのもスイスぐらいであろう。欧州列強の侵略に備えて作られた軍事施設が今でも山の中に残り、民家の地下に核シェルターがある。もっと言えば、世界の紛争の仲介役を務めるその一方、紛争で使われる武器を輸出しているのである。 「はい、それが同じ人間相手なら我が軍隊は無敵なのですが、バーベガジの前には子ども扱いなのです。」 「魔法で、子供にされるの。」 「いや、そういう意味ではなく、銃火器で倒しても、すぐに再生するのです。しかも、より凶暴になって、仕返しに雪崩を起こします。」 「火炎放射器は、どうだ。」 「バーベガジが暴れる山は猛吹雪で、使えません。」 「そんなんなら、皇君でも無理よねえ。」 「無理かな。」  正直、そう決めつけられると、ムカつくものがある。 「お願いします。捕まっている登山客の中には日本人も多くいて、何でも金メダルを取ったことのあるスキー選手もいるらしいのです。私も祖国から知らせを受け、日本政府に報告をしたところ、ある重要人物から極秘に尾上様に依頼するようにとアドバイスをもらいました。」  俺たちは、嫌な予感がした。 「あのう、その重要人物の名前は。」 「葛城 聖宝斎です。総理大臣直々の紹介ですが、私も名前を聞くのが初めてでして、表舞台には決して出てこないそうです。何でも、役小角の末裔。真言密教の奥義を究め、大峰山の奥駆けを再興した高僧、聖宝の生まれ変わりと言われるほどの神通力を誇る修験道の巨星だそうです。」  俺たちは、顔を見合わせ、これでもかって大きく長いため息をついた。  確かに、三輪の爺さんの力は計り知れなく、昭和が生んだ最後にして最大のフィクサーと呼ばれ、政財界のトップもこの爺さんには逆らえない。総理大臣も就任の際、秘かに挨拶に来るほどだからな。  実際問題、その爺さんの命令には逆らえない。しかし、いくら大神流の正統後継者の俺でもバーベガジ対策が思い浮かばない。  そんな俺の頭に直接語りかけてくる者がいた。この島の管理者、火を吐くドラゴンであった。    
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