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山人王の依頼は超危険
「ところで爺さん、俺を呼んだのは、昔話を肴にお茶を飲むだけが
目的じゃねえだろう。」
極上の葛餅と緑茶を堪能した後、俺は気になっていることを尋ねた。
「そうそれじゃ。大山、三輪、おまえたちは、席をはずせ。」
爺さんは二人に命じ、二人っきりになった後、俺にある仕事の依頼をした。
それは、尾上一族の俺にしかできない超危険で難しいもので、示された
報酬もけた違いだった。
「面白え。引き受けるよ。」
「そうか、お主ならきっとそう言うと思っていたわい。」
満足そうに微笑む葛城聖宝斎だったが、心の中では何を考えているかは
わかんねえ。まあ、それはそれで人生のスパイスだ。やるっきゃない。
それから、数日後、草木も眠る丑三つ時ってやつ、俺はあの運転手の操縦する小型ヘリで爺さんに依頼された場所に向かっていた。それは、東京都から船だと五時間以上かかる小笠原諸島の一つだ。ちなみに地図に載ってない。
この運転手は、俺の睨んだ通り、元自衛隊のエリートだった。よくある話だが、生意気で気に喰わない上に無能な上司をぶんなぐり辞めたので、爺さんが孫娘の護衛兼運転手に雇ったと話してくれた。
「林さんだっけ、あんた、航空自衛隊、第1空挺団だったんだってな。」
「はい、そうですが。それが、何か。」
口調は慇懃無礼を絵に描いたようだったが、眼が少し嬉しそうだ。
「東京タワーくらいの高さからパラシュートが完全に開かないトラブルがあったものの、その第1空挺団の隊員はまったくの無傷。訓練は続行という報道がネットで話題になったけど、あれって本当かい。」
「はい、本当です。でも、そんなもの序の口で、ネットには公表できないもっとすごいことはあります。」
「へえ、そうなんだ。林さんは、その第1空挺団のトップだったわけじゃないか。すごすぎるよね。」
「いや、それほどでもありません。」
口調は相変わらずだが、眼は完全に喜びを隠せない。口が軽くなった。
「そう言う尾上様こそ、すごいじゃありませんか。その若さで山人王様の信頼を得、こんな仕事を頼まれるなんて羨ましい限りです。」
「おだてても何も出ねえよ。どこの組織にも属さない一匹狼、使い捨てにピッタリだからさ。」
「そんなことはありません。これは、尾上一族にしかできない仕事です。」
「まあ、そういうことにしておこう。ところで。」
「はい、ここまでですね。これ以上、島に近づくのは危険です。」
「了解。じゃあ、ここで。」
「はい、ご武運をお祈りしております。」
俺は、ヘリのハッチを開けるとパラシュートも何もつけず、星一つない夜空に飛び出した。俺の血が騒ぐ。
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