319人が本棚に入れています
本棚に追加
今まで、他の家政夫が担当したがらない客の相手をしてた。
担当代えした当初はどの客も俺の見た目に畏縮しておとなしくしてたが、話してみるとどいつも普通の人だった。
ただ、会社や家庭で余裕がなくて孤独だったり、誰かに話を聞いてもらいたいって奴が多かった。
きっと、弟って事を除けば双子も他の客と同じだ。
今まで、仕事の事でかなり悩んだ事はない。その家の悪い所を見付けて綺麗にしたりするのが俺の仕事で、相手の気持ちとかは後で付いてきた。
今はただ、私情が入り過ぎて俺が一人混乱してるだけだ。慶介の事に気を取られ過ぎだ。
息を吐いて、小さく呟いた。
「今は仕事の事だけ考えろ、俺……」
仕事に身が入ってなかった分、今まで働いてきた場所を思い出して頬杖を付く。あの家を仕事場として客観的に捉えた。
そもそも、何故こんなに疲れるかと言えば……。
「……あの家は2階以外が物多くて息が詰まるんだ。しかも雰囲気がわりぃ」
慶介の事が無くても、あの家は居るだけで疲れる。まずあの大量の物と雰囲気からどうにかしねぇと。
俺は予め持っていたペンとメモを取り出して、必要な物を書き出した。
「いつも通りだな……」
新しい仕事場に行ったらこの行動はいつもの事で、聖悠の声は俺にはもう届いていない。
聖悠が厨房で料理を作り終わるまで。俺は独り言を呟きながら、あの家を良い場所にする事だけ考えた。
最初のコメントを投稿しよう!