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後日、俺は双子が仕事へ出掛ける前に自分の仕事道具を持って桐山家に赴いた。まるで戦場に乗り込む心持ちだ。
「今日から本格的に取り掛かるから。そこの部屋を綺麗にしたらそこに泊まる。俺の他の荷物はアパートから少しずつ運んでくる予定でいるから、そのつもりで頼む」
「そうですか。で……その荷物は何ですか……?」
母さん達が使っていた部屋を指差すと、宗介は違う方を見ていた。俺の背中のリュックと手に持っている大きな鞄だ。
「これは数日間の着替えと俺の仕事道具で、役立ちそうな物をいろいろ持って来たんだ」
「へぇ……まぁいいですけど……」
宗介は俺の事をあまり良いようには思っていないみたいで、まだ不服そうだ。
慶介みたいだったらそれはそれで困るが。このくらいの距離感の方が正体を気付かれなくて、家政夫の仕事はやりやすいかもしれねぇ。
「宇都木さん」
リビングから出てきた慶介は俺に封筒と合鍵を渡してきた。
「数日分の必要なお金はとりあえずここに入れておいたので、足りなくなったら言って下さい。宇都木さんの昼食もこれで。買い物に行く時は戸締まりを忘れずにお願いします」
「あ、あぁ……わかったよ」
封筒等を受け取るが、この前の出来事が俺の中では尾を引いていた。
今日からここに泊まるし、一緒に居る時間は増える。警戒しようと、常に慶介の前では身構えてしまう。
宗介が居るからか俺の反応に慶介は何も言わず、玄関で靴を履いていた。
「それじゃあ俺達は出勤するので……後はよろしくお願いします」
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