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「あんまり味にうるさくないと良いけどな……」
そんな事を言いながら鍋のカレーをかき混ぜていると、玄関の方で物音がした。
軽く振り向くと、どちらかが帰ってきたらしくて、ドアの磨りガラスに人影が見えた。それは階段を上がっていく。
「宗介っぽいな……慶介ならすぐ俺の所に来そうだし……」
気にすることなくカレーを煮込んでいると、数分後には階段をゆっくり下りてきて、リビングの扉がガチャっと音を立てた。
「おかえり。食べるならカレー出来てるぞ」
振り返らずにいると、後ろから微かに声が聞こえた。
「お……ん……」
「ん?」
不思議に思って振り返ると、そこに立っていたのはやはり宗介だった。
半分苦しそうで寂しそうな、複雑な表情をしていた。
小さく動いた唇から放たれた言葉が、俺の胸に鋭く突き刺さった。
「お兄……ちゃん……?」
「っ!?」
その言葉を聞いた俺の額には、嫌な汗が流れた。
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