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ふわり ふわり
牧場の柵は思った以上に高かった。
そこに背をもたせかけ、喜美はぷかりとタバコのケムリを吐き出した。ケムリはひつじみたいな形になって、鉛色の空に消える。雪が降りそうだった。
「ひつじはいいなぁ」
喜美は独り言みたいにしゃべる。アタシは聞いているやらいないやらという風を装う。ひつじはいい、なんて言うわりに喜美は柵の中を見ようとしない。アタシは喜美を見ようとしない。
ひつじたちは、そのもこもこの毛皮だけでは足りないのか、たがいにくっつきあって暖まっている。ように見える。実際ひつじが何を考えて寄り集まっているかなんて、ひつじだって知らないのだろう。アタシと喜美がここにいる理由が、アタシにはわからないみたいに。
「ひつじはいいなぁ」
喜美は今度ははっきりアタシに向かって喋った。
「どこが?」
アタシは顔を上げず、さも興味なさげに答える。ひつじが一頭、もこもこから離れて草を食みだした。
「暖かそうじゃないか」
「見た目だけかもよ」
「ウールのセーターは暖かいじゃないか」
「でもコートなしじゃ、今ごろは無理じゃない」
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