馬鹿じゃないの

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「馬鹿じゃないの」 そう言って君は笑ってくれた。 「馬鹿じゃないの」 そう言って君は叱ってくれた。 「馬鹿じゃないの」 そう言って君は顔を赤く染めていた。 「馬鹿じゃないの」 そう言って君は愛してくれた。 「馬鹿じゃないの」 そう言って君は泣いてしまった。 いつも優しくにこやかな君の涙に焦った。 でも馬鹿な俺は謝らなかった。 君を追いかけなかった。 「馬鹿じゃないの」 そう言ってくれる君は、もうこの世にいない。 事故だった。 喧嘩して泣きながら家に帰る途中、信号を無視して突っ込んできたトラックに轢かれて死んでしまった。 今、俺は君の墓の前に居るよ。 君が好きだって言っていた花も持ってきたんだ。 それと折角買っていたんだ。君はもう此処には居ないけど、これも置いておくよ。 給料三ヶ月分なんてのはよく聞くけど、本当に三ヶ月だなんて思わなかったよ。 君と二人で決めたあの部屋も、僕一人じゃ広すぎるよ。 寂しいよ。帰ってきてくれよ。嘘だと言ってくれよ。謝りたかったよ。まだまだ話したいこともあったよ。 君は酔ったときいつも言っていたじゃないか、子供は二人欲しいんだって。 もう、叶えられないのか。 『馬鹿じゃないの』 何処かで君の声が聞こえた気がした。 僕が友達に君のことを自慢していた時の事を止めるような照れが混じった君の声。 僕は君が居ないと寂しいよ。 『馬鹿じゃないの。』 聞こえてきたその声は、淋しげで何処か儚げだった。 その声を聞いて、君はもう帰ってこないんだと、改めて分からされた。
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