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春のよう
『これから毎朝、うちで作ってくれる?』
朝ごはん、を……作る為だけじゃないけど、
寿彦さんと、暮らせる事になった。
両親は少し寂しがったけど、何せ……近所だし。いつでも帰ってこれるからって、許してくれた。
ちょこちょこ必要な物を取りに帰ってはいるし、あまり〝家を出た〟感じはしない。それでも、朝目を覚ましたら寿彦さんがいるし〝ただいま〟を言う場所が寿彦さんと住むこの家で。俺は、この上なく……幸せ。
鍵を使う度〝ここが俺の家なんだ〟って思えて……
寿彦さんがあの時くれた鍵……今は、
〝合鍵〟じゃなくて、俺の鍵。
俺んちの鍵。
寿彦さんの〝ただいま〟を……俺は、
独り占めする人。
抱きついて、キスをねだる俺に、
くれる恋人。
幸せ。
「今日はあったかかったね。桜…見た?」
「えっ見てない…」
どうやら俺は、寿彦さんに夢中。
旬な桜でさえ、気づかないくらいに。
「見に行く?いつでも……今でも」
「行く、行きますっ今行きます!」
春の陽射しのように、寿彦さんが柔らかく微笑んだ。
「行こう」
「駅前で咲いてたんだ」
少し歩いて、最寄り駅の二ヶ領用水。
小さい川の上に木の板の歩道が両側に。
どちらにも桜の木がずっと並んで生えていて、
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