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この季節だけ照らす電球で、夜の時間もずっと明るい。
「うわーぁ、綺麗…」
こんなにたくさんの桜に囲まれた事はなかったかも。一人子供のように声を上げていた。
「もっと先に行けば、出店もあったよ」
「あ…待って」
先を歩く寿彦さんの手を、走っていって握る。
「そういえば…手…繋いだ事、なかったですね」
他の事はいっぱい、してるけど。
寿彦さんは笑って、
「誰かと手、繋いだの…何年か振りだ」
「……何年」
少し…いや、すごく気になる。
「誰と手、繋いだんですか?何年か前」
胸が痛い。やっぱり聞かなきゃ良かったかな。
「知りたい?」
「……」
嫌だ。寿彦さんが誰かを想っていた話なんか。
嫌だけど。
「…僕より、可愛い人?」
「う~ん、どうかな」
〝そんな事ないよ〟って言ってよ。
「僕より…好きな人?」
「いや、それは……」
はっきり言ってよ。〝違う〟って。
もう泣きそう。
そんな俺を知らずに、寿彦さんは笑って、
「好きだよ、千樫」
いや、そうじゃなくて。
寿彦さんの腕を掴んで、
「言って下さいっ。その人より…僕の方が、好きだって…」
「千樫……」
俺の頬を両手でさすり、軽く口付けた。
「母親」
「…え」
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