ブランディは、さよならを知らない

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「スマホ、家に忘れたんや。ちょっと掛けてみて。今晩はアジトで、文化祭でやる演目の打ち合わせする言うてたんやし、あいつ放っておいたら多分忘れるで」  ヒデに言われて、ああ、そういえば今日やったなと返したら、「お前らは人でなしや!」と言われた。  レンの親友というだけあって、ヒデはバンドに傾けている情熱が凄い。ギターもベースもドラムも、とにかく楽器の弾けない私はヴォーカルを担当しているが、決して上手い訳ではない。しかし、ぐいぐいと音楽を引っ張っていくレンと違って、ヒデは周りに合わせてベースの演奏をしてくれるので、私の歌が何とか形を成している程だ。 「夏休みも半分切っとるし、二学期になったらそれこそ直ぐ文化祭やから、今からやっとかんと間に合わん」 「わかったわかった、電話しとくから。『ブランディ』に夜七時に集合やったよな、アツは何て?来れる言うてた?何や、親戚の家に行くとか言うてた気がするけど」 「アツは多分八時くらいに合流出来そうって、朝電話した時に言うてたから大丈夫なんやろ。俺は先帰って準備しとくから、レン頼んだで」  そう言ってヒデは、ボロくなった自転車を飛ばして校門の向こうに消えていった。使い古したものだと言っていたのに、よくあれだけスーッと滑るように漕げるものだと、いつも思う。  レンに電話を掛けると、直ぐに出た。スリーコール以内。今あなたは何処にいるの?なんて聞く意味が無いくらい、私はレンの居場所に確信を持っている。 『秋理か、何?』 「一応聞くけど、今あんた何処おるの?」 『浜』  やっぱり。  レンが「浜」とだけ答えた、その秘密の浜辺は自転車で行くと二時間くらいかかる。  私たちの住む向島には、もう一つの小さな島がある。岩子島。役所やハローズがある通りをずっと西に行った先の、赤い橋を渡った先の小さな島。その岩子島の更に西側、鍾乳洞みたいなトンネルと人気の無い山道を抜けた先にある浜が、レンの「秘密の浜」だ。 「あんた、今日の事忘れてるかもと思って」 『ブランディに集合して演目決めるやつやろ。忘れるわけないやろ、だいたい夜の七時に集合かて、あと何時間あると思うてんの、あほ』  カチンと来た。お前がアホとか言うな。でも、レンは何もかもバッチリと覚えていたので、少しだけ悔しい。
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