ブランディは、さよならを知らない

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「だいたいアンタら、何でこんな夜に集合なんて事にしてん。夏休みの生活態度がどうとか言うて、先生や保護者会が目、ギラギラさせて身動き取りにくいやん」 「あほ、ブランディは昼は開いてへんねんで」 「そんなら、開店時間の夕方五時でもええのに」 「そんな時間にやったら、そんなもん部活と何も変わらへんやん。俺等、バンドマンやで。これ、俺とヒデとアツで満場一致な」  私が抜けている。こいつらは「満場一致」の言葉の意味をきちんと知っているのだろうか。いつも、こんなバカみたいなやり取りを、さらりと真顔で出来るのだとしたら、男は何て羨ましい生き物なんだろう。 「立ち話しとらんで、はよ中へ入り」  内田のオバちゃんがバカな会話の流れを切ってくれたので、私とレンとヒデはブランディへ入る。  改めて店内を見てみると、不思議な様相の喫茶店だ。擦り切れて、時代に取り残されたままのようなレコードと蓄音機。ジャズ喫茶時代の名残なのか、それともオバちゃんの趣味なのか。  そうかと思えば、壁の高い位置にスケートボードが二つ飾られている。バツ印に飾られたそれは、まるで惹かれ合う二つの生き物みたいだ。 「オバちゃん、ブランディってスケボーショップもやってたん?」  気になったので、私はそれとなく聞いてみた。 「そんなもんやってへんよ」 「じゃあ、何でスケボーが飾ってあるのん」  私が指差すので、レンとヒデも気付いた。存在は知っていたようで、そういえば何であんなもんがあるんやろうなって、二人して言っている。  オバちゃんは笑いながら、カウンターの奥から一枚の写真を持ってきた。下の方に橙色で日付が入っている。昭和六十三年の八月二十日の日付だ。私たちより少し年上っぽい四人の男女が写っていて、右端の女の子以外、三人の男の子は全員スケートボードを手にしている。 「誰なん?」 「これな、アタシが高校生の時の写真。あとの三人は同級生。あんたらみたいやろ」 「オバちゃん、昔こんなやったんか!何でこんなことになってもうたんやろ」  レンが言う。きっと悪気はないのだろうけど、当然のように電光石火でオバちゃんにどつかれていた。 「昭和最後の夏休みやった。あの頃この辺はしまなみも開通してへんかったし、周りに何もあらへんでな。今以上に田舎やった。でも尾道は坂が多くて、スケボーやるにはええ場所やて、こいつらがよく言うてたもんや」
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