ブランディは、さよならを知らない

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「流行ってたん?」 「それはわからんけど、アタシらの時代はロックとスケボーがセット、二つで一つやったんよ。ボードの裏側にレコードジャケットみたいな絵があるのもあったし。この三人と私で、東京の大会に行ってん。そら毎日が楽しかったもんよ。こんな田舎やから毎日が退屈で、未来もやりたいことも何も見えんで、毎日友達と意味もなく駄弁って。そやから時々思うてた。こんな事してる場合やないて。そしたら、知らん間にこいつにスケボーチーム組まされた。アタシ出来へん言うてるのに、そんならマネージャーしてくれ言うて」  オバちゃんが笑いながら言うのをレンたちは面白げに聞いているけれど、私にはまるで自分の事みたいだった。 「そう言うたら、平成も終わるんやった。あんたら後悔せんようにな、今年が平成最後の夏やで。来年には無いんやで」 「別に年号変わったかて、何も違わん思うけどなあ」  レンはそう言うが、それは違う。同じ時間など無いのだ。同じ夏でも年号が変わった来年の夏は、今と同じものではない。  私の中で燻る意味不明な不安の正体を、そんなに軽く言わないで欲しい。  七時半を過ぎたあたりで、アツが到着した。大久保篤志、シンプルにアツと呼ばれるバンドメンバーで、ドラム担当をしている。 「すまん、遅くなってしもて」 「ええから。そしたら各自、持ってきた演目の曲出してな。オレはこれ」 レンはガンズのCDを取り出し、続いてヒデがラッドウィンプス、アタシがバンプ・オブ・チキン。アツが取り出したCDはトキオだった。 「トキオはあかんやろ、アイドルや」 「でもジャニーズの中で一番バンドっぽいで」 「メンバー捕まったやん、縁起悪いわ」  アツが必死にトキオをやろうとするのを、レンとヒデがのらくら却下しているのが面白かった。そんな感じで会議が進んでいくが、趣味がバラバラで一向に演目が決まらない。気が付くとオバちゃんがちょっとしたご飯を持ってきてくれていて、遠くに雷が鳴っているのが聞こえた。 「あら、嵐が来るで。あんたら今日は泊まっていき、秋理ちゃんはアタシのとこに来ればええから」 「オバちゃん、俺等はどうすんねん」 「アンタら男なんやから、ここに雑魚寝で構わへんやろ」  あんまりや、と三人が口々に言うのを無視して、オバちゃんはカウンターへ戻る。その時、私は何となく気になっていた事を聞いてみた。
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