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満開の桜の下で、小さな男の子に話しかけられた。
「お姉さん、可愛い」
その言葉に私はきょとんとしてしまったが、すぐにその意味を理解して笑ってしまった。
「なんだおませさんだなー、私を口説いてるのかー?」
「……本気なのに」
そう言って大きな目に涙を浮かべる少年に、私はこう言葉をかけた。
「えっと、君が大きくなって、桜が咲いたらまた会おう!」
すると少年は目を擦り、消え入りそうな声でこう言った。
「約束」
「うん!お姉さんとの約束だ!」
そんな口約束をしてもう十年が経った。今年も桜を見に来ていた私は、ふとそんな約束を思い出していた。すると後ろから、こんな風に声をかけられた。
「……お姉さん?」
「君は、あの時の?」
私をお姉さんと呼ぶその声は低く、落ち着いて。
「はい。約束、覚えてくれてたんですね」
「君こそ、大きくなったね」
あんなに小さかった少年が、今では私の身長を追い越していた。子供の成長とは早いものだな、と名も知らない少年の姿を見て、そう思った。
「お姉さん。もう一度、僕と約束をしてくれませんか」
「いいよー、私はお姉さんだからね」
「四年後、また会ってくれませんか」
「次は四年後かあ、いいね」
「約束です」
「うん、約束」
そうして四年の月日はめまぐるしく流れて、桜の花はまた咲いた。
「久しぶりだね、元気してた?」
「はい、お姉さんもお元気そうで」
「はは、お姉さんはもう厳しいかな」
私ももうアラサーだ。それに対して少年は、ちゃんと大人になっていた。月日の流れとは時に残酷で、美しい。
「お酒、飲めるようになったんですよ」
「大きくなったねえ、今日は飲もうか」
「その前にもう一度だけ、約束して欲しいことがあるんです」
「お、いいよ。次は何年後に会おうか」
「また明日、僕と会ってくれませんか?」
「……明日?」
「……ダメでしょうか」
そう言って目に涙を浮かべる姿は、あの日の少年の姿に重なって見えた。
「まあ、いい、けど……」
「約束ですよ」
そう言って悪戯っ子のような笑顔ではにかんだ青年。そこには、少年のような素直さと、無邪気さが表れているように見えた。
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