出会い

2/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 モデルのように、尚且つ足音をさせずに歩いてきた女は、ピタリと止まり斜め前にいる男の方へと、予定を変更するように身体を実に機敏に向けた。表情には声を掛けられた事への不快感のようなものは感じられない。釣り針に魚が引っかかった時の釣り竿の上下動のようなものを男は腰回りに感じていた。「何でしょう」と女。それに対し男は「いや、実に綺麗な女性がいたものだと思いまして、下心隠す事も出来ず、これから一緒に食事でも御一緒出来たらいいなぁなんて思って、それで声を掛けてみたわけです」 「ご飯だけ?」と女。 「ご飯だけ」と男。心の中ではその後に「多分」と付け加えた。  その日は食事をし、結局の所最後はセックスをした。男はあまりにも上手くいきすぎてしまうので性病や詐欺やあらゆる可能性を疑ったが、しかし、そのような兆しがみえてくる事もなく、結局は二人、結婚する事になり、子宝にも恵まれる事となった。  女は男が飼っている犬が大嫌いだった。それは男が当時住んでいたマンションに引っ越し、同棲を始めた時からで、女は「その犬をどこかへやってきて」「捨ててきて」と男に繰り返し、しまいには「殺して」と催促していた。男は当然そんなお願いは断り続け、無視していた。  犬は女に不思議となつかなかった。  一軒家へと移り住んで暫く経った後、一向になつかない犬が不注意に尻尾を踏んだ女に怒り、そこからリビングでの追いかけっこが始まる事になってしまった。男と子供達はリビングのある一階ではなく、子供達の部屋などがある二階にいて、ボードゲームで遊んでいたのだが、女の悲鳴と犬の吠える声、そしてドタバタと地面を蹴る胸をざわつかせる音などが耳に入り、男は子供を二階へと残し、何事かと一階へと降りていった。     
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!