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「一生懸命働く手は、
どんなに荒れててもカッコいいです!」
それ、さっきの俺の台詞……
彼女の言葉を理解して、俺の心拍数はぐっと上がる。
少し照れたように彼女は眉を下げた。
「……私の方が、先にそう思ってましたよ」
チョキン!と、リボンの端をカットする音。
「さぁ、出来ました!」
俺が何も言えずにいる内に、
彼女は完成した花束を目の前に差し出して、ふわりと花のように微笑んだ。
レジで会計を済ませて、それを受けとる。
花束の下で、指先と指先が僅かに触れた。
劣等感を抱いていた俺の荒れた指も、
彼女のおかげで、初めて誇りに思えた気がする。
「喜んでもらえるといいですね!
お相手、女性の方でしょう?」
そう言った彼女に、
俺は思わず「違くて!」と身を乗り出した。
「いや、違くはないんすけど、女性って言っても、渡す相手はばあちゃんで!80歳の誕生日で!
彼女とかじゃ、ないんで全然!
……って、こんなこと言われてもだから何だって感じですけど…………」
何が言いたいのか自分でもよく分からなくなってきた。
なんで彼女を前にすると、こんなにもぽろぽろと言葉が溢れてしまうんだろう。
彼女は、本当に魔法使いなんじゃないか?
そんな気さえしてくる。
だけど、なんだ、つまり…………
「……名前!聞いてもいいですか……!」
一瞬目を丸くした彼女が、
口を手で覆って小さく答えた。
「私も……知りたいです」
こんな恋の始まりって、ありかよ……
不器用で、全然スマートじゃなくて、最高にカッコ悪い。
だけどそれとは裏腹に、
胸が高鳴って、年甲斐もなくわくわくしている自分が、
そこには居た。
Fin
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