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カウンターの上で次々と花が束ねられていく様を、
俺は、ソファに腰掛けてひたすら眺めていた。
「……お向かいの、整備士の方ですよね?」
「えっ!」
彼女がチラリと顔を上げてそう話し掛けてきて、
俺は驚いて目を見開いた。
俺のこと知ってたのか……?
一瞬期待してしまったけど、きっとこのトレードマークのモスグリーンのツナギのせいだ。
「いつも、遅くまでお仕事されてますよね。
お疲れさまです」
まさか労いの言葉をもらえるなんて思わなくて、
一気に顔が熱くなる。
「そ……それを言ったら、花屋さんの方が……
この時期は特に大変じゃないですか?水仕事だし」
「確かに、手はすごく荒れちゃいますね。
ほら、指先なんてボロボロで……」
彼女は、自嘲気味に苦笑いしながら、
その手をこちらに広げてみせた。
「……そんなこと、ないですよ。
一生懸命働く手は、どんなに荒れてても素敵です!」
俺は思わず立ち上がっていた。
キョトンとした表情の彼女を見て、やっちまった……!と後悔したけど、時すでに遅し。
「すっ……すいません……!俺、何言ってんだろ、初対面の女の人に……」
「初対面じゃ……ないですよ?」
「……え?」
今度は俺がポカンとする番で。
そんな俺を見て、彼女はまた可笑しそうに笑った。
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