私たちは恋をしない

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階段を上る音が大きくなって、近づいてきた。 彼は今、小さな音も聞き逃さないように集中しているんだろう。 部屋のドアは、猫が一匹通れるだけの隙間が開けてある。 森緒君の家では猫を一匹飼っていて、猫がいるときは家族みんなドアを閉めないことになっているらしい。 確かに猫は彼のベッドの上で、気持ちよさそうに丸まって眠っているけれど、今ドアを開けているのは猫の為ではない。 ドアに背を向けている森緒君からは見えないけれど、私からはドアの向こう側がしっかり見える。当然、向こうからも覗くことは可能で。 人影が見えたと思った瞬間、唇が触れた。 キスってこんな感じなんだ。普通に皮膚と皮膚が触れ合うよりずっと柔らかい。 私はつい瞼を閉じてしまった。森緒君とのキスをしっかり感じてみたくて。 彼の指が私の髪の中に入り込んで、頭皮をじりじりとゆっくり撫でていく。さらに押し付けられた唇の感覚に、胸が高鳴った。
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