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「脳みそが筋肉だって知ってたか?」  僕の隣で、君が言った。 「えー?ウソでしょ、筋肉なんて」 「ホントだって。本で読んだ」 「ふーん?」  僕はあえて興味のないフリをする。 『脳みそ』に反応した心臓の鼓動を、なんとか隠しながら。 「見てみれば分かるって、ほら」  突然、君が頭を開いた。  パカリという軽い音を立て、君の脳みそが露になる。  僕の中に溢れてくる、微かな期待。  口に出しそうになるそれを押し留めて、僕は君の頭の中を覗きこんだ。 「うーん、白いね」  君の脳みそは、白くて綺麗だった。  すぐにでも手を伸ばして、食べたいちゃいくらいに。 「そういうお前は?」 「僕?ほら」  頭を閉じた君の代わりに、今度は僕が脳みそをさらけ出す。  それを見た君は、いかにも嫌そうな表情を浮かべた。 「うげっ、緑だし」 「うげっ、てひどいな。仲間が増えたって喜んでよ」  緑色の脳みそを持つ僕は、地球生まれじゃない。  白い脳みそを持つ君と同じで、宇宙生まれだ。  今までずっと隠して生きてきたけれど。 「マジで?お前も宇宙人だったのか!?」 「うん」 「なーんだ、仲間だったんだな!」  君の表情が、複雑に変わる。  嬉しさと残念さが、半分半分ずつ混じった顔。 「僕が地球人だったら食べてたんでしょ?」  何を、と言わなくても分かる。  きっと、僕と君とは同じ種族だから。 「だってさ、最近食ってないんだよ。主食がない食事ほど淋しいことはないって!」 「それは僕も同感だけど」  君は、気のいい笑顔を浮かべた。 「んじゃいっちょ、地球人狩りに行きますか!」  僕は少し考えてから、はっきりと頷いた。  僕も君と同じように、少し飢えを感じ始めてたから。  隣に並んで、僕たちは歩き出す。 「地球人って基本的にどこでも美味いけどさ。やっぱ、脳みそが一番だって思うんだよな」 「でも、筋肉なんでしょ?」  僕は、ついさっき君から手に入れたばかりに知識を披露した。  途端に、君の笑顔が苦いものに変わる。 「あー、忘れようぜ?その話は」 「食欲がなくなりそうだもんね」  君はすぐに気を取り直して、思い出を語る時のように瞳を輝かせた。 「やっぱ、脳みそにはケチャップじゃね?」 「えー?僕はしょうゆだよ」 「うげっ」  今日はご馳走だ。 Fin
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