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「せっかくの新婚旅行なのに……」と恨めしげにつぶやいていると、トントンが「ちょっと待ってて」と車を降りた。車内にぽつんと取り残されて、本気で泣きそうになってしまう。
しばらくして戻ってきたトントンの手には、小さな容器が握られていた。
「はい、あーんして」
言われるままに大きく口を開けると、冷たくてぷるりとした感触が口の中にひろがった。
「どう?」
「あまくておいしい」
「まだいる?」
「うん」
あーんとねだって、また口に運ばれる。とろりとなめらかなプリンは、苦みのきいたカラメルと相まって思わず頬がほころぶおいしさだった。
「そこの蒸気で蒸したプリンだそうですよ」
「へえ。このやわらかさ、良い感じだな」
おいしいスイーツを食べるとつい「同じように作ってみたい」と張り切ってしまう。そんな僕を見て、トントンが微笑んだ。
「これでさっきのことは許してくれる?」
「……」
「だって、湯のなかでほんのり赤く染まった優貴があんまり色っぽかったから、我慢できなかったんだ。声出さないようにして悶えてる姿とか、すごく可愛くて、思わずひと思いに食べてしまいたくなったな」
「……恥ずかしいからそれ以上言っちゃダメ」
「もうひとついる?」
「うん」
「何個でも買ってくるから、帰ったらさっきの続きさせてくださいね」
「……」
「だって、今日は新婚旅行ですから」
晴れやかな笑顔で、トントンが言う。
「……そうだね。やっと叶った新婚旅行だから、喧嘩なんかしないで楽しもう」
トントンの手を取り、ふたり目配せして、微笑み合う。
ひと思いに食べちゃうのは僕の方だから、覚悟しろよ。
「おいしい」と目尻を下げるトントンを横目で見やりながら、僕はにっこりと笑って、二つ目のプリンを頬ばった。
おわり
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