157人が本棚に入れています
本棚に追加
それなのに、いま僕はチョウさんと気まずい雰囲気になっている。
きっかけはチョウさんの話だった。来週末に、中国から家族が来日するのだと言う。だからその時は会えない、とはっきり言われたのだ。
曲がりなりにもチョウさんの恋人である僕は、チョウさんの家族に会いたいと懇願した。でも、チョウさんはそんな僕の申し出をきっぱりと断ったのだ。恋人ではなく、友人としてでもいいから、と強請ってみたけれど、チョウさんは「ごめん」の一点張りだ。
分かっている。チョウさんと違ってフリーターでふらふらしてて、しかも男である僕に、いいところなんて一つもない。そうわかっていても、本当にショックだった。悲しくて、その場でぽろぽろと涙が零れた。
「ごめん、優貴。でもどうしても、会わせられないんだ。本当にごめんなさい」
泣き続ける僕をあやすように背中をポンポンと叩きながら抱きしめるチョウさんの声も表情も、本当につらそうで申し訳なさそうで、そんな気持ちにさせている僕自身が嫌になったけれど、やはりどうしようもない淋しさに襲われてしまう。
「ううん、ごめん。……僕なんか紹介できないって、当たり前だから」
「それは違う! 優貴が悪いんじゃなくて……」
それきり無言になってしまう。何事も判断が早いチョウさんにしては、珍しく、迷っている。
「いいんだ。わがまま言ってごめんなさい」
絞り出すようにそうつぶやいたら、また涙が溢れてきて、ただでさえみっともない顔がぐしゃぐしゃになる。しゃっくりみたいな嗚咽まで漏れてしまう。情けないことこの上ない。
そんな僕を見つめていたチョウさんが、はあ、と盛大なため息を漏らした。
最初のコメントを投稿しよう!