チョウさん

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「本当に、あなたには知られたくなかった」  困惑しきった声でそんなことを言うから、ああ、とうとう僕はチョウさんに嫌われてしまったのだと、絶望的な気持ちで俯いた。 「僕は三人兄弟の末っ子で、一人だけ歳が離れてて、家族から猫っ可愛がりされて育ったんだ。僕の名前、英東。中国語で、イートン。だから愛称は、……トントン」 「え、トントン?」 「今、笑ったでしょう?」 「笑ってないよ」  口元が震えた。 「パンダみたいって、思ったでしょう?」 「……そんなこと、思ってないってば」  鼻からフッと息が抜けて、思わずにんまりとしてしまう。 「嘘だ。だってほら、笑ってるじゃないか!」  いつも颯爽としていてスマートなチョウさんが、顔を真っ赤にして口を尖らせている。たまらなくなって、僕は吹き出した。 「だから嫌だったんだ。家族に会わせるの」 「たったそれだけの理由で?」 「それだけって、重大なことだよ。だって、僕はあなたの前では、誰よりもかっこいい男でありたい」  僕が見つめると、チョウさんはそっぽを向いてしまった。 「トントン」 「トントンって呼ぶな!」 「いいじゃん。トントン。こっち向いて」 「だからっ」  僕はチョウさんをぎゅっと抱きしめる。トントン、トントン。何度も囁きながら、その合間に、顔じゅうにキスを降らせる。 「好きだよ、トントン」  なおもしつこく呼び続ける僕に、あきらめたような表情で恋人がキスを返してきた。仕返しのつもりだろうか、咬みつくようなキスをされる。喉元に歯を立てられ、僕は仰け反る。  決めた。これからはトントンって呼ぶことにする。  でも「チョウさん」って響きも、すごく好きだったんだよ。
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