チョウさん

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チョウさん

 チョウさんと知り合ったのは一年前だ。  僕がバイトをしているイタリアンレストランに会社の同僚数人と訪れたチョウさんは、百パーセント、完璧に僕好みの容姿だった。だから、僕はまるで魔法にかけられたみたいに、チョウさんをじっと見つめてしまった。 「なにか?」  そんな不躾な僕の視線にも、チョウさんは口元に穏やかな微笑みを浮かべて、そう訊ねてくる。 「……あの、ベティ・ブルーの俳優に似てるって言われませんか?」  僕の問いに、少しの間考えてからチョウさんは答えた。 「僕はね、本当にくだらない役だと思うけど、ゲイでエイズで人殺しまくってる銀行強盗役の彼が、いちばん気に入ってるんだ、なぜか」  その答えに、僕は笑った。 「ああ、僕も好きです。あの、車の中で歌ってる場面が特に」  そんな、ほんの少しのとりとめのない会話で僕はもうチョウさんのことがすっかり好きになり、店を出る前にチョウさんからこっそりと差し出された名刺を受け取った。  指先が軽く触れて、心臓が高鳴り、体が火照った。それが僕たちの始まりだった。
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