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なにはともあれ生徒を無事迎えたコロニー内では、宇宙一豪華な入学式が始まろうとしていた。
それは集まった取材人に取り囲まれた、
異例の入学式となった。
始めにステージのような壇上に現れたのは、
世界的な歌姫だった。
取材陣も度肝を抜きながら、
その時の様子を伝えている音声が残っている。
「ウソ!?
あっ失礼しました。
信じられません今、壇上に姿を表したのは
キューバが生んだ世界的な歌姫」
そこで言葉を詰まらせた女性記者が、
再び興奮ぎみに続けた。
「革命の歌姫の異名をもつ、アネット・ラパス
その人です」
そこでマイクを外した記者の「信じられない」と
言う声が、微かにマイクで拾われていた。
キューバ革命により国交を断絶していたキューバが国交回復後、初めて生み出したスーパースター。
その活躍は世界(特にアメリカ)との架け橋となり、
ただの歌姫と言ったジャンルをこえた、
今や歴史的な人物であった。
その人物が唐突に壇上で歌い出す。
顔上の窓から射し込む蒼き大地地球をバックに、
ふるさと地球の歌を。
途端に入学式という厳格な雰囲気は吹っ飛び、
コロニー内は熱狂に包まれた。
宇宙初の入学式はこうして幕をあげた。
それではこの時の熱狂を生徒の一人、
時輪彼方の主観より、記したいと思う。
世界各国入学式が退屈なのは共通みたいで、
宇宙に来てもそれは変わらないと思っていた。
その姿を見るまでは。
世界的歌姫、アネット・ラパス。
キューバという閉鎖的国がらの特性上、
ほとんどメディアに姿を見せない、
実在が疑われるほどの伝説の人物。
音楽に疎い僕でも知っているほどの偉人である。
実在したんだ。
それが率直な僕の感想だった。
そして未だ見たことのない入学式は、
その歌姫の歌声より始まった。
その熱狂は世界中に配信され、
また1つ伝説となって語られるだろう。
響く優しきソールは肌を振るわせ浸透し、
いやがを無く歴史的瞬間にいることを実感させた。
歌が終わった後もその余韻は、
生徒一同を宇宙酔い以上に酔わせていた。
(宇宙酔い/無重力空間では三半規管が麻痺し、
目眩を起こす症状)
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