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元カレと同じ煙草を吸っているから気になり始めた。なんて、女々しいにもほどがあると、電車の窓に映る自分の顔を睨んだ。
目の前に缶があったら、思いっきり蹴っ飛ばしたいくらいだ。まぁ、あっても結局多分しない。
せっかく定時通り帰れたというのに、この晴れない気持ちは何なのだろう。
今日も彼に会えなかった。そもそも約束もしていないのに、そんなことでイライラする方が間違っている。あぁ、今すぐ煙草が吸いたい。
そこまで考えて、最近吸う量が増えていると自粛を決めたばかりだったことを思い出す。
「いっそ禁煙しようかな…」
ボソリと呟いた言葉は電車の音によって掻き消された。耳にイヤホンを詰め、スマホに夢中の人々に囲まれたこの状況で聞こえるとも思えないが。
少し前までは、仕事の日はほぼ毎日彼と喫煙所で顔を合わせていた。土日出社の時でさえ顔を合わせた時は飛び上がりそうだった。
私だけが頑張ってるわけじゃないんだな、なんて彼のくたびれた姿を見ては勝手に安心していた。変わらずそこにいてくれる保証なんてそもそもなかったのに、いつしかそれが当たり前の日常になっていた。喫煙所で彼と会えることが嬉しくて、過ぎていくだけの日々の癒しになっていて、彼と過ごせる理由を作るためだけに煙草を吸いにいっている日も増えた。
そうだ、とふと思いつく。
今なら禁煙も成功するかもしれない。試しにいつも煙草を買っているコンビニを通らずに帰ってみようか。実はその方が近道だったはずだ。
気付けば最寄駅に到着し、人に流されるように電車から降りていった。
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