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突発的に禁煙を始めてからしばらくが経ち、今日も気晴らしに帰り道を少しずつ変えていた。いつもの道を通ると、つい煙草を買っていた店に寄りそうになるからだ。
歩きながら思ったことは、やはり煙草のこと。禁煙は、気になっていた男と会えなくなったくらいでするものだろうか。これではまたいつ夜中に煙草を買いに出かけていくか分からない。そうなると、今私がここを歩いているのは何なのだろう。
こういうイライラが、ふとした瞬間に爆発しそうになるのを抑えながらの生活が続いていた。ニコチンが切れてのイライラだなんて思うと、まるで自分が負けたような気がするので、無視して家へと歩き続ける。
住宅街となったその中を大股で進んでいたその時、向かいから歩いてくる人影に思わず目を瞠る。見覚えのあるスーツ。ただ、その表情は見たことがない。
「八尋さん……?」
名前を呟けば、向こうもこちらに気付いたようでピタリと足を止めた。そして、目の前にいるのが間違いなく彼なのだと気付く。
手を繋いだ幼い男の子に向けていた優しい笑顔。そんな顔もするのか、という驚きと、所帯の雰囲気なんて微塵も出していなかった彼の隣にいる子供の存在が信じられなかった。
「えっと……喫煙所の?」
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