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寝室、少女はまた此処へ戻ってくると、朝の眠気など吹き飛んだかのように、ベッドの足元に立てかけてある数冊の本の内、少女の大好きな薬屋の話を手に取ると本を広げる。
内容など、何回も何十回も読んで全て頭に入っているが、それでも、展開がわかるとしても少女はこのどこにでもあるような絵本の話がとても好きだった。
それは、亡くなる前の父親が、最後に読み聞かせてくれたものだから。
「♪~」
それを鼻歌混じりに広げ読み進める。
小さな少女の、小さな小さな小瓶にまつわる、不思議な薬のお話。
小さな少女はある日、困っていた商人を助け、お礼に小さな小瓶に入った薬を受け取り、その薬を最初は病気の母に、村の村長に、ひいては国の王子様に。
他人の不幸を良しとせず、他人の幸福を求めてどんな病も治す不思議な薬を人のために使い続け、やがて少女を取り合って村々の争いが起き、それが国と国の戦争に発展し、遂にはそれを止めるため少女自身が小瓶の薬を全て服用し、最後は死んでしまうという、悲しいお話。
けれど少女はそれを好んで読んでいた。
「また、そのお話?」
気づけば、昼をとっくに過ぎ、さっき洗濯をしていた母親も洗濯を干し終わり家に帰っていた。
「うん、大好きだもん!」
「でも悲しいお話でしょう? もっと楽しいものを読んだら?」
「ううん、これがいいの」
「そう……」
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