みかん畑の隣には

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みかん畑の隣には

「ばーちゃん! みかん畑いってくるねー!」 「はあ? あー、はいはい、気ぃつけて行きんさいよー」 「はーい! おねーちゃんこっちこっち! いくよー!」 「ちょ、ちょっと花ちゃん、引っ張らなくても場所は私も分かるから……い、行ってきます」 「桂子(けいこ)ちゃんも行くんかねぇ? 日が暮れるまでに帰りぃよー」 「はーい」  瀬戸内海に浮かぶ島、周防大島。  父が仕事でしばらく遠くの国に行く事になり、諸事情で生まれ育った町とも離れる事になった。そこで生まれつき体の弱い母は、私達を連れて自身の実家であるこちらに、つい最近引っ越して来た。  耳の悪い祖母に聞こえる様に大きな声で行き先を報告し、私の手を引くのは妹の(はな)ちゃん。私に見せたい物があるらしく、家の裏手を通って山へと続く細いあぜ道をひた走っている。 「はやくはやく! ブラウニーかえっちゃう!」 「ブラウニー……って、妖精の? みかん畑で見つけたの?」 「ちがうよー! みかん畑のとなりに、ひみつのやさい畑があるの、花ちゃんはっけんしたの!」  急げと言いながらも川の中を覗いたり、道行く動物に話しかける花ちゃんのペースに合わせながら、みかん畑を目指す事10分。普通に歩いて向かうのより三倍近くも時間がかかった。  到着するなり花ちゃんは、手ごろな大きさのみかんを幾つかもいで、彼女の一張羅である毛糸のワンピースの裾で風呂敷の様にそれを包む。「おねーちゃんも」と言われたが、流石にそんな下着が見える様な持ち方は恥ずかしくて出来ない。そもそも中学生である私は、スカートは穿きたくても穿けない。なので数個ほど腕で抱えて、背の低いみかんの木の間を潜り抜けて畑の奥へと抜けると、急に道が開けて小さな畑が現れた。  野菜ごとに区画分けがされており、規則正しく並んだ(うね)には、綺麗に葉が巻かれたキャベツやレタス、その向こうにはイチゴまでもが実を成らせている。 「秘密の野菜畑って、ここ?」 「そうだよ! えっと……」  暫く周りを見回す花ちゃん。誰もいない事を確認すると、手を拡声器代わりにして、いつにも増した声を張り上げた。 「ブラウニィー! 花ちゃんきたよー!」  ガサ  その声に反応してか、茂みから音がした。そこから顔を出したのは――
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