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嫌な夢をみた。
真っ暗な狭い部屋に私と母が居る。以前若い頃に住んでいた和室の部屋である。そして今は他界している母が悪霊に呪われる夢だ。夢の中の母は呪いのせいで衰弱をしていってしまう。私は何にもできずに、ただ「お母さんが助かりますように」と母の手を握るだけ。けれど母は呪いに打ち勝つ事が出来ない。私はそんな夢を見て魘されてから覚めた。布団の中は体温で温まっていて少し自分の寝汗を感じる。
横では夫が寝息をたてていた。私は時計を見てから夫の腕の中に滑り込むと、もう一度目を閉じた。朝が来るまで後二時間程時間がある。
夢の続きを見ませんように
私はもう一度浅い眠りにつく。
目を覚ましたのは五時半を回ってからであった。
「ああ。もうこんな時間、寝すぎちゃった」
私は薄暗い部屋を出て慌てて顔を洗いに洗面所に向かうと、大声でまだ布団の中にいる夫に声をかける。家は古びたアパートなので洗面所から寝室までは直ぐの距離だ。
「博人さん、目を覚まして。もう五時半よ」
「ああ。もう?気がつかなかった。あまり大声をだすな。隣に丸聞こえだ」
「御免なさい。急いでお弁当作るわね」
夫は工場でコンクリート製品の製造業をしている。数年前から正社員だが月給は少なく朝が早い。何時も六時半には家を出なくてはいけないのだ。私はいつもの様に冷蔵庫から卵を取り出し、フライパンで焼くと銀色のお弁当箱に並べていった。それにウインナー、ブロッコリー、プチトマト。お決まりのおかず。私のお弁当と二人分だ。
「今日は雨みたいだな」
「そうね。こうして春がやって来るのよね」
三月に入ってから雨の日が増えた。気温も少しづつ上昇している。
「今日は早く帰れそう?」
「そうだな。工場の機械の調子も良いし、大丈夫だろう」
「私も早く帰ろうかしら。最近残業続きだったもの。定時で帰るなんて久しぶり」
忙しくて疲れている時にかぎって悪夢を見てしまう。ゆっくり眠りたいのに。
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