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はるになりました。
きせつのなかでいちばんだいすきな、はるです。
おひさまのひかりがあたたかくふりそそいでいます。おべんとうをもって、おきにいりのばしょにいき、ゆっくりけしきをみながらたべることが、いちばんのたのしみです。おきにいりのばしょにつくと、せんきゃくがいるではありませんか。どっきりしたわたしは、きづかれないようにそろりそろりとさくらのきにちかづきます。このばしょはわたししかしらないとおもっていたものですから、ほかのひとがいておどろいてしまったのです。きょうはいつものようにおちついたきもちでたべることができずどきどきしながら、あじもゆっくりあじわえないくらいいそいでたべていました。
でもきになります。わたしのうしろにいる人はなにをしにここへきたのでしょう。どんなことをかんがえているのでしょう。
ぼくはながいじかんのあいだずっとひとりぼっちだった。もうすぐぼくはこのせかいからきえる。でもこわくないんだ。やっとこのくるしみからじゆうになれるようなきがしたんだ。1000かいめのはるがやってきた。さくらのきはむかしとかわらずいまもここにしずかにすわっている。ぼくはこのばしょがいちばんあんしんするところだった。きょうはおわかれをしにきたんだ。いつもかわらずぼくをみまもっていてくれてありがとうって。おはなしはできなかったけれど、きみのそばにいるときだけはあんしんできたんだよ。こんやまでにぼくはきえてしまうけれど、ぼくといたじかんをどうか、わすれないでいてくれたら…
「はじめまして、こんにちは」
僕は心臓が跳び跳ねるほどびっくりした。桜の木が僕の気持ちにこたえてくれたのかなと思ったけれど、目の前に髪の長いかわいい女の子がいるのでした。
その女の子はよほど緊張しているのか早口で、口の周りにたくさんごはん粒をつけていた。
「ふふっ」
「あ、わらった。ねえ、よかったらあなたのとなりにすわってもいいかしら?」
思わず笑ってしまった。それなのにその女の子は怒ってどこかへ行ってしまうこともなく、僕の側に来てくれた。心がぽかぽかして、何百年分もの涙がこぼれ落ちた。
苦しくても、生きていたら良いことはいつか巡り巡ってくる。誰かがあなたのことをきっとみていてくれている。それは桜の木かもしれない、空や、鳥、人かもしれない…あなたはひとりじゃない。
となりにきてくれてありがとう。
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