第5章

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お母さんは、慌てて声をかけた。 「……ちょっ、ちょっと雨谷さん、ここは男の方は連れてきてはいけない決まりですよ。お話ししましたよね! あなた一人で住んでいるのではないんですから!」 雨谷が、口の中でブツブツと言った。が、最近、耳が遠くなったお母さんは聞き取れなかったようだ。 「なんですか? 耳が遠くて……、聞こえないんですが、もう一度言って下さいな」 「知らん言うてるやろ」 雨谷は蔑むようにお母さんを見た。 「表の貼り紙にも書いてましたよ。女性だけって! それに契約書にも書いてありますよ。男の人を連れてくるのは、困ります」 「さあ……、そんなん知らんわ」 雨谷は男にクイッと首をしゃくり上げて「上に……」と合図すると、大げさにドスドスと大きな音を立てて、二階に上がって行った。続いて、男が二階に上がろうとしたので 「ちょ、ちょっと、家に入らないでください」 お母さんは男の腕をつかんだが、払いのけられた。 「もう、これ以上、黙っているわけにはいかないわ」 雨谷たちが上がっていった二階をキッと睨んだ。だけど、話し合うことも出来ない雨谷を相手にどうしていいか分からず、キッチンの椅子に腰を下ろすと、頭を抱え込んで動かなくなった。
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