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しばらくして、陽奈が帰ってきた。
「お母さん、どうしたんですか?」
元気のないお母さんを心配して、何があったのかと陽奈は驚いて聞いた。
「陽奈ちゃん、……それがね…… 」
お母さんは、先程の一連の事を話した。
「ええ! そんな……、それは困ります」
陽奈もお母さんの話を聞いて、飛び上がった。
「理沙ちゃんや久美子ちゃんが帰って来るまでに、あの男の人に出て行ってもらわないと、困るわ」
お母さんはそう言ったが、その顔は明らかに怯えていた。
「とにかく、私、もう一度、雨谷さんと話してくるわ」
「お母さん、大丈夫ですか? 私、行ってきましょうか?」
「ありがとう。でも陽奈ちゃんに何かあったら大変だもん。それにスミレ荘を守るのは私の仕事だから」
お母さんは足が弱っているので、片方の手すりをしっかり掴んでもう片方の手は階段において慎重に上がって行く。陽奈は後ろから付いて行った。
2階に上がると、聞きなれない音が部屋から漏れ出ている。
「なんの音かしら?」
「これ、ゲームの音だと思います」
陽菜はやったことはないのだが、従妹たちがしているのを見ていたので少しくらいは分かる。
トントンと、雨谷の部屋のドアを叩く。
返事がない。
もう一度、叩いてみる。
やはり、返事がない。
「どうして返事を、してくれないの……」
お母さんはションボリした。
陽奈とお母さんは、雨谷の出て来るのを待ってみたが、何の反応もないので諦めてキッチンに下りてきた。
相変わらず、大きな音がしているのに……
「困ったわ。男の人がいたんじゃ、みんなお風呂にも入れないわ。もしかしたら、いろんな男の人を連れてくるかも知れない。そんなことになる前に、早く出て行ってもらわないと。それにもう一人、男の子がいるんでしょ? 十七歳とかいう……。いったいあの部屋はどうなってるのかしら」
お母さんは両手で頭を抱えてしまった。
が、しばらくするとまた二階の雨谷の部屋に行った。
「雨谷さん。雨谷さん。出てきてください。中にいるのは分かっているんですよ」
―――ドンドン! ドンドン! ドンドン!
お母さんは力の限り扉を叩いた。
―――ドンドン! ドンドン! ドンドン!
ガチャと音がして金髪の男が顔を出した。
ゲームの音が一段と大きく聞こえる。
こんなに大きな音だと理沙や久美子は眠れないのではないだろうか。
「うるさいなぁ、ババア、何やねん。いったい何の用や」
男は、お母さんと陽奈を睨みつけた。
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