第8章

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「あ、そうだわ。二つ駅の向こうに大きなショッピングモールが、出来るのよ。今、働いてくれる人を募集中よ」 「そうなんですか? 私、行ってみようかしら」 「そうよ。それもひとつの選択よ」 「私も行ってみようかなぁ」 「え? 久美ちゃんも?」 お母さんが驚いたように久美子を見た。 「今の仕事、考え直して見ようかなって、なかなかお給料は上がらないし……。ほら、手もこんなに荒れて」 久美子はガタガタになった手を見せながら笑った。 「ひどい。前よりひどくなってるじゃない。ちゃんとお医者さんに行ってるの?」 お母さんが、かぶれたようになっている久美子の手を見て言った。 「わたし……ほかの人より皮膚が弱いみたいで……それにこのまま美容師を続けていても、なかなか、見習いから上がれないような気がして……」 「ここまで頑張ってきたんだもの。もう少し続けてみるか、新しいことに挑戦してみるか、それは久美ちゃんにしか決められないわ。しっかり考えてみて……」 「はい、もう一度、考えてから決めます」 「そうよ。何も慌てることなんか無いわ。久美ちゃんは若いんだし、まだまだ、やり直しが効くんだから」 「お母さん有り難う。やっぱり、スミレ荘はいいな。帰って来られて嬉しい!」 そう言うなり、久美子は急に泣き出した。理沙と陽菜が、ポンポンと久美子の背中をたたいた。 「理沙ちゃん。久美ちゃん。お部屋片付けるの手伝いますね。私、この前、家具を移動したままなんです」 「ありがとう。陽奈ちゃんには迷惑ばかりかけてるね。本当にありがとう」 「そんな……」 陽菜が照れ笑いした。 「お母さんごめんね。勝手なお願いばかりして」 「じゃあ、悪いんだけど、二人で一部屋使ってもらってもいい?」 「じゃあ、二人で部屋代として三万円、今月分は一万円でいいですか?」 「ええ、ええ。いいですよ」 お母さんは理沙と久美子に押されている感じだった。 お金のことなので、陽奈は聞こえないふりをして、夕食の後片付けをしていた。 「では、今、四万円お渡ししていいですか?」 理沙は用意していたらしい封筒をお母さんに手渡した。 「ありがとう。でも、この一万円はお返しします」 「……でも、お母さん……」 「次の仕事を探す資金にしてちょうだい。二人ともこれから、大変なことも多くなるでしょうから、ちょっと、待ってね。領収書とってくるから」 「ありがとうございます。お母さん」 理沙は少しホッとした顔をして、お母さんから一万円を受け取ると財布に入れた。陽菜はその姿に、去年の自分の姿と重なり身につまされた。今は、お母さんのおかげで仕事も見つかり安定した生活がある。改めてお母さんに感謝した。
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