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後片付けが終わった陽奈は、みんなのためにお茶を入れた。
「ありがとう。陽奈ちゃん」
理沙と久美子がニッコリ笑って受け取った。
「明日、おかあさんの教えてくれたショッピングモールに行って来るね。今日は部屋も片付けなくっちゃならないし」
理沙はそう言って、ガッツポーズを作って笑った。
次の日、仕事を探しに出かけた理沙が、嬉しそうにルンルンして帰ってきた。
「お母さん。お仕事決まりました。契約社員ということで、婦人服のお店なんです」
「よかったわねえ。こんなに早く決まるなんて。さすが理恵ちゃんね。美人だし、賢いし、どこの会社もこんないい子放っとくわけないわ。それにしても、良かった良かった、今夜、お仕事決まったお祝いしましょ」
「陽奈ちゃんのスーツ借りたのが良かったんだと思います。偶然、そこのお店のだったんです。だから、すぐに決まって……。陽奈ちゃんが仕事から帰ってきたら、お礼言わなくちゃ」
「そうだったの。ほんとに良かったわ」
お母さんはそう言って、そっと胸を撫ぜた。
「契約社員といっても、がんばれば正社員になれるんですって、お母さん。私、がんばるわ。ショッピングモールの開店は、二週間後なんですが、来週の月曜日から出勤します。それまで、お洋服のことを勉強しますね」
「えらいわ、理沙ちゃん。がんばってね」
「はい。お母さん」
理沙はそっと立ち上がると、お母さんの肩を揉み始めた。
「いいの、いいの。そんなことしなくても、疲れているのにゆっくりしなさい」
「ううん。嬉しくて、少しばかりの親孝行をさせてください」
「ありがと」
お母さんは、「疲れるから、疲れるから」と言いながら、気持ち良くなったのか、こっくりこっくり居眠りをしだした。
夕方帰ってきた陽奈に、お母さんは理沙の就職が決まったことを一番に言った。
「理沙ちゃん。良かったですね」
「私もびっくり。こんなに早く決まるなんて。陽奈ちゃんのおかげよ。偶然、着ていった服がそこの会社の服で、ほんとにありがとう」
理沙は、陽奈に抱きついて礼を言った。
「それは、私じゃなくて、チカちゃんのおかげです。理沙ちゃんの会社の服って人気があるのね。チカちゃんのも、先生のお嬢さんが下さった服も、理沙ちゃんの会社の服がたくさんあるの。私、一人じゃ着ることが出来ないから、もらってもらえますか」
「いいの? 陽奈ちゃん」
「はい。晩御飯のあとで、一緒に選びましょ」
言いながら陽奈はもうエプロンをつけて、夕ご飯の支度をしている。
「今日は、何? 陽奈ちゃん」
「簡単に、野菜炒めと秋刀魚の開きと冷奴、それに豚汁をつけたらと思って」
「美味しそう!手伝うわ」
「ありがとう。あら、ライちゃん。すぐに美味しいもの作るから、待っててね」
ライがふわっと陽菜の足元に寄り添った。 二人の女の子が、手際よく料理を作っている姿は見ていても気持ちがいい。
「ライちゃん、味見するもの、まだないよ」
陽菜の言葉に、ライはトントンとステップを踏んで答えた。その様子がとても可愛らしい。お母さんはこの幸せが、ずっと続けばいいのにと願うのだった。
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