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第9章
「もう、理沙ちゃんが働き出して、1ヶ月になるのね」
爽やかな秋が過ぎて、冬の訪れを感じる頃、お母さんは、陽奈の入れたお茶を飲みながらホッとしたように呟いた。
今度の仕事のほうが理沙には合うらしく、同僚の女の子や上司の話を楽しく聞かせてくれる。大原は、セキュリティの会社で働いている。
「今日の夕御飯は、翔君とライちゃんと陽奈ちゃんと私の四人ね。大原さんは夜勤だって言ってたわ」
「理沙ちゃんと久美ちゃんは遅番ですもんね」
「みんな、よくがんばるわね」
そんな話をしていると、自転車の音がした。翔が帰ってらしい。ライが嬉しそうに翔を迎えに出て行った。
なかなかは翔は家に入ってこない。
「どうしたのかしら?」
「迎えに行きましょうか?」
「あ、私が行くわ」
お母さんがヨッコラショッと立ち上がった。
「あら、どなたかいらっしゃってるのかしら」
表に出て行くと、白い車が停まっていて男の人が出てくるところだった。
(道を尋ねておられるのかしら?)
お母さんは不思議で首を傾げた。近づいていくと、翔はとても硬い表情をしていた。ライは男の人と翔を交互に見ながらゆっくりしっぽを揺らしている。
車から女の人も降りてきた。すると、ライは嬉しそうに飛びついた。女の人はライを優しく受け止めるとキュッと抱きしめた。ライも嬉しそうに顔を摺り寄せた。
「翔君、お母さんがいらしたの?」
重苦しい空気の中、お母さんの穏やかな声が響く。
「はい。」
返事した後も、二人を紹介しようとはしない翔……。お母さんは見かねて口を開いた。
「翔君はずっとお母さんを探していたのですよ。休みの日になると、朝早くから夜遅くまで心配して心配して……。本当に良く訪ねてくださいました。熱いお茶を入れますので、どうぞ中にお入りください。……どうぞ、お父さまもいらして下さい」
お母さんは翔の両親に対して、深々と頭を下げて言った。様子を見にきた陽奈もお母さんに倣って頭を下げた。
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